仮想通貨の財産分与は相場が動くたびに「得する側・損する側」が変わる

離婚のときに仮想通貨が財産分与の対象になること自体は、弁護士事務所のサイトにも書いてあります。ただ、「対象になるかどうか」だけわかっても、不安は消えません。

仮想通貨の財産分与は現金や不動産と違って、相場が動くたびに得する側と損する側が入れ替わります。しかも渡す側に課税されたり、相手が財産を隠していたりと、現金では起きない問題が山ほどあります。

この記事では、評価のタイミング・渡す側の税金・財産隠しの調査方法まで、弁護士サイトが「ここから先は相談してください」で済ませがちな部分を掘り下げます。

目次

仮想通貨も離婚の財産分与で分ける対象になる

結論から言うと、婚姻期間中に夫婦の家計から購入した仮想通貨は財産分与の対象です。名義がどちらであるかは関係ありません。

婚姻期間中に買った仮想通貨は「共有財産」になる

預貯金や株式と同じように、夫婦が婚姻中に共同の家計から出した資金で取得した仮想通貨は、共有財産として扱われます。分与の割合は原則2分の1です。

ビットコインだけではありません。イーサリアム、リップル、NFT、ステーキングで得た報酬もすべて含まれます。「仮想通貨だから見逃してもらえる」とはなりません。

なふと

夫婦のどちらの名義で取引所の口座を持っていても関係ありません。婚姻中に家計から出たお金で買ったものは、すべて共有財産の候補になります。

「結婚前から持っていたビットコイン」は分けなくていい

すべての仮想通貨が対象になるわけではありません。以下の条件に当てはまるものは「特有財産」として分与の対象外です。

  • 結婚する前から自分の資金で購入し、保有していた仮想通貨
  • 親族からの相続や贈与で取得した仮想通貨
  • 独身時代の貯金から購入したと証明できるもの

ただし、結婚前に買ったビットコインに加えて、結婚後に家計から追加購入した場合は話が複雑になります。特有財産と共有財産が混ざった「混合状態」として、どの部分が誰のものかが争点になりやすいです。

贈与で仮想通貨を受け取った場合の税務については、こちらの記事で詳しく解説しています。

仮想通貨の評価額は「いつの時点」で決まるか

仮想通貨の財産分与で最も厄介なのが、評価額を「いつの価格」で計算するかという問題です。1日で10%動くこともあるビットコインの場合、基準をいつに置くかで金額がまったく変わります。

原則は「離婚成立時」の時価だが、実務はもっと複雑

裁判所は原則として「離婚成立時」の時価を評価基準時としています。

とはいえ、離婚届を出した瞬間にビットコインのチャートを確認して金額を確定するわけにはいきません。実務では、調停や審判の最終期日に近い時点のレートが使われることが多いです。

小西法律事務所のコラムでは「別居時」ではなく「離婚成立時」が原則と明記されています。ただし実務では最新のレートを用いるケースが多いとされています。

調停中にビットコインが半値になったらどうなるか

離婚を決めてから実際に成立するまで、半年から1年かかるケースは珍しくありません。その間にビットコインが50%下落すれば分与額も半分になりますし、逆に急騰すれば倍になります。

たとえば、協議開始時にBTCが1,000万円だったのが、成立時には500万円になっていたとします。受け取る側からすれば「あのとき決めていれば500万円もらえたのに」となりますが、原則として成立時の価格が適用されます。

「著しく公平を欠く場合」は評価時期の修正がありえるとされていますが、現実にはほとんど認められていません。仮想通貨の価格変動は資産としての性質であり、それ自体が「不公平」とは見なされにくいためです。

仮想通貨の財産分与は、手続きを長引かせるほどどちらかが得をし、どちらかが損をするギャンブルのような構造になります。

なふと

株の場合も同じリスクはありますが、ビットコインは1日で10%動くこともあるので、インパクトが桁違いです。離婚が長期化する場合は、評価時点を合意で固定しておくのも選択肢です。

仮想通貨を現物で渡すと「渡す側」に税金がかかる

ここが仮想通貨の財産分与で最も見落とされやすいポイントです。現金を渡す場合と、仮想通貨をそのまま渡す場合では、税務の扱いがまったく異なります。

現金の財産分与と仮想通貨の財産分与では税務が違う

現金で財産分与をする場合、渡す側に税金はかかりません。財産分与は「もともと相手の持分を返す」行為であって、贈与でも売買でもないからです。

ところが、仮想通貨を現物で渡す場合は事情が異なります。国税庁の取り扱いでは、仮想通貨の移転は「譲渡」として扱われる可能性があり、取得原価と移転時の時価の差額が課税対象になりえます。

現金で渡す場合
仮想通貨を現物で渡す場合
  • 渡す側に課税なし
  • 金額が確定しやすい
  • 手続きがシンプル
  • 渡す側に譲渡所得が発生する可能性
  • 評価額がレートで変動する
  • 税務処理が複雑になる

具体的な数字で見てみます。100万円で買ったビットコインが500万円に値上がりした状態で、財産分与として現物のまま相手に渡したとします。この場合、差額の400万円が雑所得として課税対象になる可能性があります。所得税と住民税を合わせると、最大で約55%。つまり400万円の利益に対して約220万円の税負担が発生しうるわけです。

仮想通貨を現物で渡すと、分与額の半分近くを税金で持っていかれるケースがあります。

「売却してから現金で渡す」のほうが安全な場合もある

現物で渡す場合のリスクを考えると、一度仮想通貨を売却して現金に換えてから渡すほうがシンプルな場合があります。

売却すれば課税タイミングが明確になりますし、渡す金額も円ベースで確定します。もちろん売却時に利益が出ていれば課税は発生しますが、「いつ課税されるか」がはっきりする分、計算が立てやすいです。

一方で、相手が仮想通貨そのものを欲しがっている場合は現物移転が選ばれることもあります。将来の値上がりに期待しているケースや、売却の手間を省きたいケースです。どちらが有利かは個別の状況次第ですが、税務の影響を無視して「とりあえず現物で」と決めるのは危険です

なふと

弁護士に相談すると法律の話は教えてくれますが、税務の落とし穴までカバーしてくれるかは別です。仮想通貨の財産分与を進める場合は、税理士への相談も並行して行うことをおすすめします。

利益が出た仮想通貨の確定申告については、こちらの記事で詳しく解説しています。

受け取る側は「もらった瞬間」には課税されない

渡す側にリスクがあるなら、受け取る側はどうでしょうか。

財産分与として仮想通貨を受け取る場合、その時点では原則として贈与税はかかりません。財産分与は「贈与」ではなく「もともと自分の持分を受け取る行為」だからです。

ただし、ここで安心するのは早いです。受け取った仮想通貨を将来売却するとき、「受け取った時点の時価」が取得原価として使われます。受け取ってから値上がりした分に対しては、しっかり所得税がかかります。

財産分与で仮想通貨を受け取っても税金が消えるわけではありません。「課税の先送り」が起きているだけです。

たとえば、時価500万円のビットコインを財産分与で受け取り、その後700万円に値上がりした時点で売却したとします。この場合、差額の200万円が課税対象になります。

なふと

もらったときは非課税でも、売却時に大きな税金が来る可能性があります。受け取ったあとの出口戦略を先に考えておくべきです。

渡す側も受け取る側も、タイミング次第で税負担が変わります。仮想通貨の財産分与は「誰がいつ課税されるか」を事前にシミュレーションしておくことが重要です。

相手が仮想通貨を隠していたらどうやって見つける?

仮想通貨は銀行口座と違って通帳がなく、スマホのアプリだけで管理できてしまいます。「持っていない」と言い張られたら終わりなのでは?と思うかもしれませんが、調べる方法はあります。

国内取引所なら弁護士照会で残高がわかる

弁護士に依頼すれば、弁護士会照会(23条照会)という制度を使って国内の仮想通貨取引所に口座の有無や残高を問い合わせることができます。コインチェック、bitFlyer、GMOコインなど主要な取引所は本人確認が義務化されており、照会に応じるケースが増えています。

ただし注意点があります。この照会は「どの取引所を使っているか」を指定して行うものなので、相手が使っている取引所がわからなければ手の打ちようがありません。

相手のスマホにインストールされている取引所アプリ、登録確認メール、銀行口座の入出金履歴が手がかりになります。離婚を考え始めた段階で証拠を集めておくのが鉄則です。

ブロックチェーンの取引履歴は全世界に公開されている

「仮想通貨なら足がつかない」と思っている人がいますが、実際は逆です。ビットコインやイーサリアムなどのパブリックブロックチェーンは、すべての取引履歴が全世界に公開されています。ウォレットアドレスさえわかれば、残高も送金先も誰でも確認できます。

問題は「ウォレットアドレスと人物を紐づける」部分です。取引所経由であれば上記の弁護士照会で辿れますが、MetaMaskなどの個人ウォレットだけで管理している場合は追跡が困難になります。

とはいえ、完全に隠し通すのも簡単ではありません。国内取引所からの送金記録を辿れば個人ウォレットのアドレスが判明するケースがありますし、確定申告書に記載された仮想通貨の利益から保有状況を推定することもできます。

仮想通貨は「匿名性が高い」と言われがちですが、パブリックブロックチェーン上の取引は全公開です。完全に隠し通すのは思ったより難しいと知っておいてください。

仮想通貨と借金の問題については、こちらの記事でまとめています。

よくある質問

離婚協議中に仮想通貨を売却されてしまったらどうなる?

離婚を前提とした状態で一方的に財産を処分した場合、財産分与の計算上「まだ存在するもの」として扱われる可能性があります。つまり、相手が勝手に売却しても、売却前の評価額をもとに分与額が計算されるケースがあります。

ただし、これを認めさせるには売却前の残高を証明する必要があります。取引所の取引履歴やスクリーンショットなどの証拠を早めに確保しておくことが重要です。

DeFiに預けている仮想通貨やステーキング報酬も対象になる?

はい、DeFiプロトコルに預けている仮想通貨やステーキングで得た報酬も、婚姻期間中に取得・発生したものであれば財産分与の対象になりえます。

ただし、DeFiウォレットは国内取引所と違って弁護士照会が使えないため、相手の保有を証明するのが難しい場合があります。

海外取引所の仮想通貨は財産分与から逃れられる?

海外取引所にある仮想通貨も、日本の法律のもとで行われる離婚では財産分与の対象になります。「海外だから対象外」ということはありません。

ただし、海外取引所は弁護士照会に応じないケースが多いため、残高の証明が困難になることがあります。相手の海外取引所の利用を疑う場合は、銀行口座からの海外送金履歴を確認するのが有効です。

仮想通貨の財産分与で後悔しないために

仮想通貨の財産分与は、現金や不動産とは違う独自のリスクを抱えています。価格変動・課税タイミング・財産の発見しづらさが重なるため、「弁護士に相談すれば安心」では済まないケースが多いです。

  • 仮想通貨も原則として財産分与の対象。名義が誰であるかは関係ない
  • 評価時点は離婚成立時が原則だが、実務では調停・審判時のレートを使うことが多い
  • 現物で渡すと渡す側に譲渡所得が発生する可能性がある
  • 受け取った仮想通貨を売却するときにも別途課税される(課税の先送り)
  • 国内取引所は弁護士照会で残高が開示される。ブロックチェーン上の記録は全公開

仮想通貨を持っている状態で離婚に臨むなら、弁護士だけでなく税理士にも相談すること。そして、評価時点と受け渡し方法を早い段階で合意しておくこと。この2つが、あとから「こんなはずじゃなかった」を防ぐ最善の方法です。

なふと

仮想通貨の財産分与は法律と税務の両方が絡む問題です。どちらか一方の専門家だけでは見落としが出ます。弁護士と税理士の両方に相談するのが、遠回りに見えて一番確実です。

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